この講話では、利己的な行動と利他的な行動について、脳の働きやエネルギー、情報論、そして発達心理学の観点から考察しています。
まず、人間が自分のことを大切に思うのは当然であるとしつつも、それが強すぎると自己中心的になり、発展性が失われると指摘しています。
利己的な人は自分のことばかり考えているようで、実際には自分のことに最も意識が向いていないと述べられています。
一方、他人のことを考え、他者のために行動する利他的な行為は、脳内で自分自身が嬉しいと感じる時と同じ報酬系を活性化させることがわかっています。
例として、親が子供のためにお弁当を作る行為や、恋人同士のプレゼントなどが挙げられ、利他的な行動は自分自身を幸福にする側面があると説明されています。
エネルギーの観点からは、自分のためだけに考える場合、エネルギーは一人分にしかなりませんが、他人を幸せにしようとすると、その対象となる他者の数に応じてより大きなエネルギーが湧き上がると述べられています。
マザー・テレサの例を挙げ、多くの人を幸せにしようとすることで、無限に近いエネルギーが生まれると説明しています。
情報論的な観点からは、自分の幸せは自分で理解できるものの、他者の幸せは「他者性」であり、直接的にはわからないため、相手の年齢、性別、立場、趣味などを考慮し、洞察力を持って捉えることが重要だと説いています。
音楽プロデューサーや小説家の例を挙げ、他者のニーズを理解することこそが成功につながると説明しています。
また、社会のニーズを捉え、他者の困っていることや求めていることを助けることが、ビジネスや社会貢献につながるとも述べています。
他者を理解しようとすることで、脳内の利他的な回路が発達するとも言及されています。
他者を理解する難しさについては、「心の理論(Theory of Mind)」が紹介されました。
共感だけでは他者を十分に理解することは難しく、相手の状況や価値観を理論的に理解する重要性が語られています。
共感できる範囲を超えた他者を理解し、取り込むことが、より大きな成果につながると説明されています。
プラットフォーマーと呼ばれる成功した起業家たちは、多くの人が使いたくなるような公共財のようなサービスを提供しており、これは利他性の表れであると述べられています。
日本のクリエイターに見られる自己語りの傾向についても触れ、自分の好きなことばかりを発信するのではなく、他者が何を求めているかを洞察する視点が重要であると指摘しています。
パブリックな視点を持つクリエイターの方が、より遠くまで行ける可能性が高いと述べられています。
利他性を育む重要性が強調される一方で、利己的な人が生まれる背景についても、発達心理学の「安全基地(セキュアベース)」理論を用いて説明されました。
子供の頃に保護者からの愛情が不足すると、自己愛の回路が形成されやすいとされています。
しかし、他者のことを考える能力は後からでも育むことができると述べられています。
子育てにおいては、子供の挑戦を見守り、結果だけでなくプロセスを褒めることで、安全基地を育むことが重要であると説いています。
最後に、自分がいかに多くのものから恩恵を受けているかに感謝する気持ちを持つこと、お互いに安心できる居場所を作ることが、他者への関心を向ける第一歩となると述べ、利他性を分かち合うことの重要性を改めて強調しています。
補足として、この講話は、自己中心的な考え方から脱却し、他者の視点を持つことの重要性を多角的に説いています。
利他性は、倫理的な観点だけでなく、自己の幸福や社会的な成功にも深く関わっているというメッセージが伝わってきます。