この動画は、退職金の一部を個人年金保険で運用することの是非について、具体的な個人年金保険の事例を基に、リスクとリターンの両面から客観的に評価する方法を解説しています。
目次
個人年金保険の評価軸:リスクとリターン
個人年金保険のような金融商品を評価する際、最も重要なのは、その商品が持つリスクに見合うリターン(利回り)が得られるかどうかを判断することです。
多くの人が表面的な利回りやメリットに目を奪われがちですが、リスクを正しく認識し、リターンを正確に計算できなければ、適切な判断はできません。
事例検討:退職金1,000万円を個人年金保険で運用
今回の相談事例は、退職金1,000万円を個人年金保険で運用するというものです。
その保険の具体的な条件は以下の通りです。
- 60歳時点で保険料1,000万円を全額納付。
- 65歳から79歳までの15年間、年金として受け取り。
- 6年目以降は年金給付額が毎年5%ずつ増加。
- 受け取り総額は約1,140万円。
個人年金保険に潜む7つのリスク
この個人年金保険を運用する上で、以下の7つのリスクが挙げられます。
- 元本割れリスク: 満期(80歳)まで解約しない限りは元本割れしないものの、途中で解約した場合には解約手数料や違約金が発生し、元本割れする可能性があります。
- 為替リスク: 今回の事例は円建てのため為替リスクはありませんが、外貨建ての保険では為替変動が運用成果に大きな影響を与える可能性があります。
- 税務リスク: 保険料の負担者と年金受取人が同一であれば贈与税は発生しません。年金は雑所得として所得税の対象となり、受取人が途中で亡くなった場合は相続税の対象となります。これらは通常の個人年金と同様の扱いです。
- 金利リスク: 現在のような超低金利時代に契約すると、将来もし日本が利上げを行った場合、預貯金などの金利水準と比較して、個人年金保険の利回りが相対的に見劣りする可能性があります。
- 流動性リスク: 1,000万円を保険に投じると、20年もの間、資金の流れが固定されてしまいます。急な住宅リフォーム費用、老人ホーム費用、病気治療費、孫の教育資金援助など、まとまった資金が必要になった際に、この保険では対応が難しい、あるいは元本割れ覚悟で解約するしかなくなる可能性があります。
- インフレリスク: 国が年率2%のインフレ目標を掲げている中で、年率2%未満の運用では、実質的に資産が目減りする可能性があります。今回の保険の利回りがインフレ率を下回る場合、お金の実質的な価値は減少していくことになります。
- 長生きリスク: 人生100年時代と言われる現代において、80歳で年金が底をつく「有期年金」であるため、それ以降の生活費の備えが別途必要になります。平均寿命が延びている現在、この保険だけでは長生きリスクに対応できません。
個人年金保険の最終利回り計算
上記の個人年金保険の最終的な利回りを、IRR関数という複利計算ツールを使って算出すると、約1.05%となります。これは、1,000万円が20年間で約1,140万円になった場合の年率換算の利回りです。
このように複雑な金融商品の場合、提供される「返戻率」などの数字に惑わされず、自分で真の利回りを計算してみることが重要です。
リスクとリターンの比較、そして最終判断
算出した利回り1.05%が、リスクに見合うものかどうかの判断には、リスクフリーレート(無リスクの金利)との比較が有効です。
現在の10年国債の金利が約0.89%であることを考慮すると、今回の個人年金保険は、国債と比較して約0.15%の追加金利を得るために、金利リスク、流動性リスク、インフレリスク、長生きリスクといった多様なリスクを引き受けることになります。
この0.15%の追加リターンと、引き受けるリスクが見合っていると考えるのであれば、この個人年金保険は「買い」という判断になります。
しかし、引き受けるリスクに対して0.15%の追加リターンでは不十分と考えるのであれば、「見送り」という判断になるでしょう。
講演者は、個人的な判断として、多様なリスクを引き受けるにしては0.15%の追加リターンでは不十分であり、より優れた投資商品が多数存在すると考えるため、この個人年金保険は「いらない」と結論付けています。
正しい判断力を養うために
銀行、証券会社、保険会社などの勧誘に惑わされず、自身で適切な判断を下すためには、以下のステップを踏むことが重要です。
- 商品のリスクを洗い出す。
- 商品のリターン(利回り)を正確に計算する。
- リスクとリターンを比較検討し、自身のリスク許容度や目的に見合っているかを判断する。
最終的にリスクを引き受けるのは、お金を出す本人です。
そのため、大きな金額を投じる商品に関しては、起こりうるリスクや得られるメリットを十分に理解し、自身にとってその投資が大切なお金を使うに見合っているかを判断する力が求められます。
これは日常生活でリスクを判断する能力と本質的に同じであり、情報を正しく把握する力があれば誰でも身につけられると述べています。