国保逃れ規制とマイクロ法人スキームの正しい活用法
1. 厚労省による「国保逃れ」規制のニュースとNG基準
一部の議員が、理事が700人もいる実態のない一般社団法人を利用し、国民健康保険料の支払いを逃れていた問題を受け、厚生労働省は本格的な是正に乗り出しました。
厚労省は日本年金機構を通じ、以下の基準に該当する「実態のない社会保険加入(名ばかり役員)」を違法とし、加入取り消し(過去への遡及含む)などの厳格な処置を行う方針を示しました。
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NGとなる主な基準:
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法人に支払う「会費」が、受け取る「役員報酬」を上回っている。
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業務内容が月数回のアンケート回答や勉強会(自己研鑽)のみで、「経営への参画」や「経常的な労務の提供」といった実態がない。
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2. 合法的な「マイクロ法人」スキームとは
規制された「一般社団法人スキーム」とは異なり、個人事業主が自分自身の会社(マイクロ法人)を設立し、代表として実態のある経営を行った上で社会保険に加入する手法は、現時点では適法とされています。
個人事業の利益に対する青天井の国民健康保険料を避けるため、法人の役員報酬を最低等級(月5〜6万円程度)に設定し、社会保険料を月額2万円台(年間約30万円)に抑えるのが目的です。
3. マイクロ法人を適法に運営するための具体的な注意点
税理士の視点から、税務調査や年金事務所の調査で否認されないためには以下のルールを守る必要があります。
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売上の実態を作る: 個人事業から法人へ単に業務委託をする(売上を付け替える)のは実態を疑われやすいためNG。法人として直接新しい顧客を開拓するか、既存の取引先の契約を法人名義に切り替える。
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他人を巻き込まない: 自分の法人に他人を名ばかり役員として加入させると、今回規制された違法ビジネスと同じ扱いになるため絶対に避ける。
4. おすすめの法人形態と、導入の「損益分岐点」
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おすすめは「合同会社」: マイクロ法人は事業拡大が目的ではないため、設立費用(登録免許税15万円〜)が高い株式会社や、2年ごとに役員登記が必要な一般社団法人よりも、設立コスト(6万円)や維持の手間が最もかからない「合同会社」が推奨されます。
導入の目安(年間コスト):
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法人での社会保険料:約30万円/年
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法人住民税(均等割):約7万円/年
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税理士費用など維持費:約10〜20万円/年
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合計コスト:年間約50万〜60万円
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結論として、現在の国民健康保険料と国民年金の合計が年間50〜60万円を超えている人であれば、マイクロ法人を設立する金銭的メリットがあります。
目次
最低等級とは?標準報酬月額
「役員報酬の最低等級」とは、社会保険料(健康保険・厚生年金)を計算する際に適用される「最も安い保険料の枠」のことです。
これがなぜ社会保険料の劇的な削減につながるのか、その仕組みと関係性を分かりやすく解説します。
1. 「最低等級」の仕組み(標準報酬月額とは)
社会保険料は、「給料が25万3,100円だから保険料は〇〇円」というように1円単位で計算されるわけではありません。給与額をある一定の幅(枠)で区切り、その枠ごとに決められた保険料を払う仕組みになっています。この枠のことを「標準報酬月額(等級)」と呼びます。
この等級には「下限(底)」が設定されており、これが「最低等級(第1等級)」です。
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健康保険の最低等級(第1等級): 月給6万3,000円未満の人に適用。
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厚生年金の最低等級(第1等級): 月給9万3,000円未満の人に適用。
つまり、役員報酬を月額5万〜6万円程度に設定すれば、健康保険も厚生年金も「これ以上安くならない絶対的な底値(最低等級)」に固定されるということです。
社会保険料削減スキームとの関係(カラクリ)
この「最低等級」のルールを利用し、国民健康保険(国保)の高額な負担を回避するのが、動画で解説されていたスキームの核心です。
【国保の場合(スキーム利用前)】 国民健康保険料は「稼いだ利益(所得)」に比例して青天井で上がります。個人事業で大きく稼ぐと、保険料は年間数十万円から、最大で年間約100万円近くまで膨れ上がります。
【最低等級を利用した場合(スキーム利用後)】 自分で法人(マイクロ法人など)を作り、そこから自分に支払う役員報酬を「月額5万〜6万円」に設定します。すると、以下のことが起きます。
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強制的に社会保険へ切り替わる: 法人の役員になるため、高額な国保を脱退し、社会保険に加入することになります。
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保険料が「底値」で固定される: 役員報酬が月額5〜6万円なので、「最低等級」が適用されます。その結果、社会保険料は会社負担・個人負担を合わせても月額2万円台前半(年間約25万〜30万円程度)という最安値に固定されます。
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個人事業の利益は無視される: 社会保険料は「法人からもらう役員報酬」だけで計算されるため、本業の個人事業でどれだけ数百万、数千万円の利益を出していても、保険料には1円も影響しなくなります。
まとめ
「役員報酬の最低等級」とは、社会保険料を最安値にするためのパスポートのようなものです。
違法とされた「一般社団法人スキーム」も、合法とされる「マイクロ法人スキーム」も、「形だけ、あるいは別事業で法人を作り、役員報酬を5〜6万円に設定して『最低等級』に滑り込む」という根本的なカラクリは全く同じです(実態の有無によって違法か合法かが分かれます)。
このスキームを実行した場合、社会保険料は大きく下がりますが、法人を維持するための税金(法人住民税など)や税理士費用などの「ランニングコスト」が新たにかかってきます。