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「知らないことの力」ハーバード大学首席の卒業スピーチ

このスピーチでは、話し手が「知らないこと」の力、すなわち「わからない」と言える勇気とそこから生まれる学びや連帯の重要性について語っている。

従来、人は知識や成果によって称賛され、子ども時代から賞や評価を得ることに価値を見出してきた。

しかし、このスピーチでは、知っていることではなく、知らないこと、そしてその未知にどう向き合うかこそが、これからの時代を生き抜く力になると説かれる。

 

話し手自身の経験も語られる。

南アジア系移民の長女としてネブラスカで育ち、家族の中で初めてアメリカの大学へ進学した彼女は、多くの「わからないこと」に直面した。

両親に大学の出願方法を尋ねても「わからない」と返され、その言葉に最初は無力感を覚えたが、やがて「知らないこと」を出発点とした学びと成長の可能性に気づく。

大学では「科学史」という存在すら知らなかった分野を専攻し、欠けている記録や語られていない声に光を当てる歴史の学びを通じて、「沈黙は空白ではなく、しばしば強い意味をもつ」という新たな認識を得た。

この視点は、彼女が所属する2024年卒業生の世代の経験と深く結びついている。

 

入学初年度はパンデミックによりキャンパスライフが制限され、仲間との関係づくりも通常とは異なる形になった。

2年次には中絶の権利を認めていた「ロー対ウェイド判決」が覆され、リプロダクティブ・ヘルスの不確実性に直面した。

3年次にはアファーマティブ・アクションの撤廃をめぐる最高裁判決が大学を揺るがし、そして最終学年には、学生の政治的立場や発言をめぐる対立が激化し、有色人種の学生の氏名と個人情報が晒されるなどの深刻な問題が発生した。

これにより、多くの学生が進路や安全を不安に感じることとなり、さらには一部の学生が卒業を許可されないという事態にまで発展した。

この事態について、話し手は言論の自由と民主主義の価値の観点から強い懸念を示し、大学に対して抗議の声を上げた学生・教職員・卒業生の連帯を称えながら、大学当局に「私たちの声が聞こえていますか」と問いかけた。

この一連の状況は、社会全体が分断と対立のただ中にあること、そしてそのような中でこそ「知らないこと」を受け入れる姿勢——すなわち共感、謙虚さ、学ぶ意志が不可欠であることを浮き彫りにしている。

 

さらに、「知らない」ことは単なる欠如ではなく、一つの倫理的な立場であり、それによって他者の立場や痛みに対して想像力と理解を持てるようになると説かれる。

私たちは自分が経験したことのない苦しみや立場を完全に理解することはできないかもしれないが、それでも他者と連帯することはできる。

「知らない」という姿勢は、問いを立て、耳を傾け、共に考える出発点となる。

最後に話し手は、「これから社会に出る上で、知っていること自体はさほど重要ではなく、知らないことにどう向き合うかこそが私たちの価値を決定づける」と結び、「不確かさの中に飛び込み、違和感や葛藤に向き合いながら、初心者の心を持ち続けよう」と呼びかける。

エミリー・ディキンソンの詩「夜明けがいつ来るかわからないけれど、私はすべての扉を開ける」という一節を引用し、学びと連帯に満ちた未来への一歩を、未知の中から切り開いていこうと締めくくった。

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